ニューヨークの州立公園の過ごし方

海に向かって、車を走らせていくと、やがて州立公園のゲートにつきあたる。この時期はだれもゲートブースにいないので、そのまま通過して公園内の道路に入る。車のスピードは思い切り落とす。高速から直接はいるのでその案配が難しいが、これだけはきちんとまもらないと、マナー違反だし、なによりも交通事故を起こすのが怖い。車道は四車線の立派な道路だが、ときおり散歩道だのサイクリング道などの横断歩道が横切っていて、そのまえに立派なスピードバンプが結構な高さでもってあるので、まとも突っ込むと、サスペンションの底まで突き上げがある。この公園は自然公園であるとともに、運動公園でもあるので、ポロ場とか、ヨットハーバーなどの施設毎に駐車場案内道路が導かれていて、標識をよくみていないと、行きたい場所は目の前にあるのに、そこにはいることがでいない、などという目に遭う。いくつもの駐車場をすぎて、ようやく目的の場所にたどりつく。

そこは、海に面した広場で、駐車場が水際まではりでている。運良く最前列にとめることができると、車の運転席から海までのあいだに何も遮る物がない。全く揺れない船の艦首にいるようなもので、ハンドルにもたれかかって、さざ波に太陽がきらめいているのを見ていると、何時間でも過ごすことができる。今は冬なので、窓を開けるのには多少勇気がいるが、その気になれば、ヒーターを目一杯たいて、こたつ気分で潮の香りだって楽しむことができる。ここは大西洋で、寒流がすぐ沖を流れていて、さらに何千も昔に氷河が栄養分にとむ土をけずりとってしまったので、おそらく海藻が全く生えない不毛の海で、水はどこまでも澄んではいるけども、ほとんど生態反応というものがない。黒潮の海ように、おびただしい小魚の群れで、水面のあちこちにさざ波が立ち、それを追う大きな魚があちこちに巨大な波紋をつくり、それを狙った鳥がたてるあちこちの水しぶき、そんな生命を全く見ることができない。静かで冷たい冬の海。

チーズとハムのサンドイッチを食べ終えて、ブラックティーを飲んでから、一旦車外にでてパンくずを入念にはらい、ついでに車のシートやフロアーをきれいにしてから、車のエンジンをかける。良く晴れていたけれども、こういう日の常で、厳しく冷え込んでいて、車内の気温もかなり寒くなっている。幸いに、エンジンはすでにウォームアップしているから、すぐに暖かくなる。車は駐車場を離れ、州立公園の一番奥にある、バンガローのある地域を走る。切妻屋根のバンガローが、フロントテラスを海側に向けて行儀良く建てられていて、全部で十棟くらいある。テラスを望むリビングが一面のガラス張りで、人目を気にする上に、陰影などをこのみがちな、日本人的感性に照らし合わせてみると、なかなか落ち着かない作りだと思う。

やがて来るときにくぐったゲートを反対方向に通行して州立公園をあとにする。くどいようだが、このように高速道路に直結しているゲートは、スピードのコントロールが難しい。しばらくは後ろの車にあおられながら走ることになる。午後から風がでるという予報通りに、帰る頃には空のあちらこちらに、積乱雲が盛大に湧き上がり、強風にあおられてすごいスピードで太陽をかすめていくので、その巨大な影が大地をせわしくひっかいていく。ときおり雲からさっと日が射し、それが灰色の雲の峰の陰影をおどろおどろしくみせるので、なんとも尋常ではない雰囲気をかもしだす